はじめに
ECサイトのデザインを変えたいのに、テーマの設定画面では変えられる範囲が限られている。表示速度を改善したいのに、どこから手をつければいいのか分からない。ECの運営を続けていると、こうした「テーマの範囲内ではできないこと」が少しずつ増えてきます。
その解決策として名前が挙がるのが「ヘッドレスコマース」です。この記事では、ヘッドレスコマースとはどういう考え方なのか、従来のECサイトと何が違うのか、そして自分のサイトに向いているのかを、技術者ではない方にも分かるように解説します。
ヘッドレスコマースとは何か
「見た目」と「裏側」を分ける構成
ヘッドレスは直訳すると「頭のない」という意味ですが、ECの文脈では「ユーザーが見る画面(フロントエンド)」と「商品や決済を管理する裏側(バックエンド)」を分離する構成を指します。従来のECサイトでは、この2つが1つのシステムに一体化していました。Shopifyの標準テーマを使う場合がまさにそれで、便利な反面、見た目のカスタマイズは裏側の仕組みに縛られます。
ヘッドレスでは、Shopifyには商品データ・在庫・決済の管理だけを任せ、ユーザーが実際に見るWebサイトはNext.js(Webサイトを作るための土台になる仕組み)などの別の技術で自由に作ります。役割を分けることで、それぞれが得意なことに専念できる構成です。
セントラルキッチンをイメージすると分かりやすい
イメージしやすいのは、飲食店のセントラルキッチン方式です。料理(商品データ)は1か所でまとめて作り、複数のレストランや宅配サービスに届ける。各店舗は内装もメニュー表も自由にデザインでき、同じ料理を違う雰囲気で提供できます。
従来型のECサイトは、キッチンとダイニングが一体になった1軒のお店。内装を変えようとするとキッチンの配置にも影響が出ます。ヘッドレスは調理と提供を分けた方式なので、店構え(見た目)だけを自由に作り替えられる、という関係です。
従来のShopifyテーマと何が違うのか
従来のテーマでは、デザインもページの表示もShopifyのサーバーが担当します。ヘッドレスでは、表示を担当するのは自分たちで用意したNext.jsのサイトで、Shopifyには必要なデータをAPI(システム同士がデータをやり取りする窓口)経由で問い合わせます。ユーザーから見える部分の技術を自分たちで選べるようになる。これが最も大きな違いです。
なぜいま注目されているのか
ユーザーの目が肥えてきた
スマートフォンでの買い物が当たり前になり、SNSで洗練されたデザインを日常的に見ているユーザーは、ECサイトにも使いやすさと見た目の良さを求めるようになりました。テンプレートそのままのデザインでは、ブランドの個性を伝えるのが難しくなっています。
表示速度が売上に直結する
ページの表示に数秒かかると、ユーザーはその時間を待たずに離脱します。表示速度は検索順位の評価項目にもなっているため、遅いサイトは集客の面でも不利になります。ヘッドレスでは、ページをあらかじめ作り置きして配る方式(静的生成)を採用できるので、表示速度を大きく改善できます。
接点がWebサイトだけではなくなった
Webサイトに加えて、スマホアプリ、店頭のタブレット、LINEミニアプリなど、ユーザーとの接点は増え続けています。ヘッドレスなら、Shopifyが持つ同じ商品データを複数のチャネルから使えるため、売り場が増えてもデータの管理は1か所のままで済みます。
従来型との違いを表で整理
表を一言でまとめると、ヘッドレスは「自由度と速度を得る代わりに、初期の開発に手間がかかる」構成です。
ヘッドレスが向いているケース・向かないケース
向いているケース
ブランドの世界観を大切にしたいD2C(自社ブランドの商品を直接販売する形態)ブランド、表示速度やSEOを重視するサイト、Web以外のチャネル展開を考えている事業者には、ヘッドレスの自由度がそのまま強みになります。デザインの制約で妥協してきた部分を、根本から作り替えられます。
向かないケース
一方で、小規模で運用コストを抑えたい場合や、開発に割けるリソースが限られている場合は、従来のShopifyテーマで十分なことも多いです。ヘッドレスはフロントエンドを自分たちで用意する構成なので、作って終わりではなく、維持していく体制も必要になります。ここは正直、規模と目的次第という感じです。
まとめ
ヘッドレスコマースは、Shopifyに裏側の管理を任せたまま、ユーザーが見る画面を自由な技術で作る構成です。デザインの自由度、表示速度、複数チャネル展開が主な利点で、その代わりに初期開発と運用の手間が増えます。
具体的にどんなメリットがどれくらいあるのか、そして裏側がどうつながっているのかは、続きの2記事で解説しています。