宿泊ゲスト向けAIアシスタントの全体像

家電の使い方から周辺案内まで。宿泊者だけが使えるAIコンシェルジュの設計

AIアシスタントゲストサポートチャットUI多言語LLM
読了時間: 8分

はじめに

無人チェックインの宿には、フロントがありません。夜10時に「洗濯機の使い方が分からない」となったとき、聞く相手がいないのです。運営者に電話が鳴るか、お客様が諦めるか。どちらも良い結果ではありません。

この記事では、宿泊者専用ページに組み込んだAIアシスタントの全体像を紹介します。24時間4言語で、家電の使い方から周辺のお店まで答えてくれる、無人運営の相棒です。

どこに置くかを最初に決める

公開サイトには置かない

AIチャットというと、公式サイトの右下に置いて誰でも使えるようにするのが一般的です。しかし今回は、宿泊者専用ページの中にだけ設置しました。

設置場所の選択
BEFORE
公開サイトに設置

誰でも無制限に利用でき、宿と無関係な質問にもAPI費用が発生する。悪用の温床にもなる

AFTER
宿泊者専用ページに設置

予約したお客様だけが使える。質問も宿泊に関するものに自然と絞られる

宿泊者だけが使うと決めたことで、答えるべき範囲が明確になりました。「うちの宿の家電と施設と周辺のこと」に集中でき、それ以外は丁寧にお断りできます。

使えるようになるタイミングも制御する

さらに、AIアシスタントが使えるのはチェックイン3日前の正午からにしました。予約直後から使えると、まだ関係のない質問が増えてしまいます。

大事なのは、この制御を画面上の表示だけで行わないことです。ボタンを隠すだけでは、直接アクセスされれば使えてしまいます。実際の処理を行うサーバー側でも同じ判定を行い、期間外なら応答しません。

いきなりAIに聞かせない

3段階の絞り込みを先に置く

チャット画面を開くと、いきなり自由入力欄が出るわけではありません。まず選択肢が表示されます。

質問にたどり着くまでの流れ
話題を選ぶ

家電の使い方/チェックイン/設備/ハウスルール/周辺/緊急

家電を選ぶ

洗濯機・食洗機・オーブンなど、宿にある家電の一覧から選択

よくある項目から選ぶ

「基本の使い方」「お手入れ方法」など、あらかじめ用意した回答を即表示

自由に質問する

上記で解決しなければ、文章で質問。ここで初めてAIが動く

ポイントは、最初の3段階ではAIを一切呼ばないことです。回答はデータベースにあらかじめ用意されたものをそのまま返します。

こうすることで、よくある質問は費用ゼロ・待ち時間ほぼゼロ・間違いようがない形で解決します。AIが必要なのは、想定していなかった質問だけです。

待ち時間をあえて作る

面白いのは、データベースから即座に返せる回答にも、意図的に0.7秒ほどの間を置いていることです。

一瞬で答えが返ってくると、機械的で冷たい印象になります。少し「考えている」時間があるほうが、会話として自然に感じられます。速ければ良いというものでもない、という一例です。

根拠のある回答をする

資料に書いてあることだけを答える

AIが一番怖いのは、それらしい嘘をつくことです。「この洗濯機は乾燥機能付きです」と自信満々に言われて、実は付いていなかったら困ります。

そこで、家電の取扱説明書や施設情報をあらかじめ検索できる形にしておき、質問に関連する箇所を探してから、その内容だけを根拠に回答を作る方式にしました。いわゆるRAG(検索拡張生成)です。

検索して何も見つからなければ、AIを呼ばずに「その点についてはお答えできません」と返します。知らないことを知らないと言えるほうが、結局は信頼されます。詳しい仕組みは「家電マニュアルを知識にする」で解説しています。

情報源を明示して混ぜない

周辺のお店を案内するときは、情報源を2つに分けて提示します。宿が実際に確かめて推奨しているお店と、地図サービスの検索結果です。

表記の扱いにも配慮する

家電の操作パネルが日本語表記の場合、英語で回答するときに「白米を選んでください」を英訳だけで答えると、パネル上に該当する文字が見つかりません。

そこで「パネル上の日本語表記はそのまま残し、括弧で訳を添える」というルールをAIへの指示に含めました。海外のお客様が実際にボタンを見つけられるかどうか、という視点です。

4言語すべてで同じ品質を保つ

日本語・英語・繁体字・韓国語のすべてで、画面の文言、注意書き、お断りの文面まで完全に用意しました。

特にお断りや緊急時の案内は、AIに生成させずあらかじめ人が用意した固定文を使います。安全に関わる文言は、その場で作らせない。この判断は「AIに言わせない技術」で詳しく説明しています。

まとめ

AIアシスタントの設計で軸にしたのは、次の3点です。

  1. 宿泊者専用にする — 公開サイトには置かず、答えるべき範囲を絞る
  2. AIを呼ぶ前に3段階置く — よくある質問は固定回答で解決し、費用も間違いも減らす
  3. 資料を根拠にする — 検索で見つかった内容だけを使い、なければ正直に答えない